ハンク・ジョーンズの美しさ

hank jones the talented touch

この作品を聴くと、ハンク・ジョーンズこそ、アート・テイタムの正統的な後継者だと感じる。
オスカー・ピーターソンやフィニアス・ニューボーンJr.など、アート・テイタムの系譜に連なるピアニストは少なくないけれど、テイタムの演奏に立ち上る典雅なムードをこれほど想起させるピアニストはいない。

テイタムの上品さを現代的にし、美しいタッチで晩年まで洗練された演奏を聴かせてくれたハンク・ジョーンズ。ファッションもふるまいも紳士的で、ジャズの不良性やエネルギーとは無縁。
彼が人種差別を受けたとか、差別に抗議するといった発言をしているのを目にしたこともない。世代的に人種差別を受けなかったはずはないわけで、徹底して人種差別問題から距離を置く姿勢には強い意思を感じる。

ハンク・ジョーンズは91歳で没するまで一日も練習を欠かすことはなかったという。群れず流されず、天賦の才能に甘えることなく努力し続けた孤高のピアニスト。美しいのはタッチだけではない。