現代UKジャズを鑑賞する

四谷のジャズ喫茶「いーぐる」の店主、後藤雅洋氏は、故中山康樹氏と並んでジャズの師匠といえる存在。その後藤さんの新著『ジャズ喫茶いーぐるの現代ジャズ入門』が出版された。
今どきのジャズはどうも面白くないなぁと思っていただけに、師匠にぜひ教えを乞いたい。さっそく入手し、推薦盤として挙げられているディスク評をチェックした。

ページをめくっていて惹かれたのが、テオン・クロスというチューバ奏者のアルバム。
低音楽器が怪しいサウンドを醸し出していそうだ。おまけにヌバイア・ガルシアも参加している。面白そうなので入手してみることにした。

theon cross fyah

のっけから強烈なサウンドにのけぞる。リーダーのチューバはともかく、湿気を含んだヌバイア・ガルシアのテナーが良い。メロディーも結構キャッチーだ。
楽しめないわけではない。ただ、繰り返し聴きたいかといえば、うーんと唸らざるをえない。
アドリブは個性的ではないし、リズムはドカドカしていて安定感がない。エキサイティングではあるものの心に響かない。

これはきっと、クラブで聴くものであって再生機の前に座って鑑賞する音楽ではないのだ。踊れない世代にとって鑑賞不能なUKジャズは受容しにくい。
後藤さんが以前から推しているゴーゴーペンギンも本書で取り上げられているが、どうにも魅力を感じない。演奏に必然性を感じないというか、伝わってくるものがない。
ジャズは遠くへ行ったことを痛感した。

気になったのは本が話し言葉で書かれていたこと。「です・ます」調は近年の傾向とはいえ、「〜なのですね」という表現が多く、気色悪い。変化への対応力に優れている後藤さんではあるけれど、これは失敗だと思う。
推薦ディスクのセレクションも文体も時代に迎合してはいないだろうか。余計なお世話ながら「いーぐる」は大丈夫だろうかと心配になってしまった。