蝦夷梅雨とホレス・シルヴァー

月に一度ほど札幌に出張していた時期があった。仕事の合間に時間が中途半端に空くときがあって、そんなときには南3西4にあるジャズ喫茶Bossaに向かった。
入口から真っ直ぐ行ったあたりに2人用ボックス席があり、いつもそこに陣取る。ここはスピーカーに正対するものの、レコードをかける場へ背を向けるかたちになる。かかっているのが誰のレコードかわからない。振り返って有名盤だと恥ずかしい思いをすることになるので、振り返るには勇気がいる。
ジャズ喫茶ではよくあることで、ジャズファンとは、つくづくつまらない見栄にまみれて生きていることを我が身をもって知る。

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いつものように時間つぶしにBossaに行き、コーヒーで一服したら、ハードバップが流れてきた。
いい演奏だ。テナーはハンク・モブレー?ピアノも聴いたことがあるぞ。ブルーノートだろうか。いや、どうも違う。うーん、誰のアルバムだろう。
なかなか振り返ることができない。
たまらず勇気を出して振り返ると、目に飛び込んできたのが、このジャケットだった。

horace silver silver's blue
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ハードバップなのに汗臭くなく軽快。曲によってメンバーが異なり、トランペットにジョー・ゴードンが参加しているのも珍しい。
中山康樹の『超ブルーノート入門』には、ホレス・シルヴァーがこの作品について不満をもっていたことが記されている。だが、ホレスのファンではない立場からすると、素直で青くさく、どこか愛おしさを感じる作品だ。

ジャケットを目に焼き付ける。蝦夷梅雨でちっとも北海道らしくない日だったけれど、晴れやかな気分で店を出た。