ウォルター・デイヴィス・ジュニアの良作

小川隆夫『ジャズジャイアンツ・インタヴューズ』でウェイン・ショーターがモードイディオムについて語っている。そのなかで興味深かったのが以下の部分。

「わたしにとって大切なことはリー・モーガンという偉大な音楽家と出会えたことだ。一緒にウォルター・デイヴィス・ジュニアからイディオムを教わって、あとはいつもふたりで曲を書いていた。‥‥(中略)‥‥リーはモード・イディオムがどういうものかをわたしより的確に理解していたと思う。理論家ではなかったけれど、彼は演奏を通して無言のうちにモード・イディオムのイロハをわたしに伝えてくれていた」

リー・モーガンウェイン・ショーターの仲の良さがうかがえる。意外だったのはウォルター・デイヴィス・ジュニアからモード奏法を学んだということ。もしかすると再評価すべき人なのかもしれないと思い、リーダー作を探すことにした。

ウォルター・デイヴィス・ジュニアのリーダー作といえばブルーノートの『Davis Cup』。4000番台らしいハードバップの名盤だが、主役はジャッキー・マクリーン。リーダーの存在感は薄い。その後はサイドでの仕事が多く、リーダー作の録音機会には恵まれなかった。Wikipediaによると裁縫師として糊口をしのいでいた時期もあったらしい。

そんなウォルター・デイヴィス・ジュニア に1980年代、リーダー作の録音機会を与えたのが増尾好秋のJazz Cityレーベル。

walter davis jr. illumination

冒頭の柔らかくモーダルなピアノは、なんだか別人のよう。アルバム全体ではモンクの曲を含めてバラエティ豊かなサウンドに仕上がっている。

Jazz Cityレーベルは都会的で統一感のあるジャケットデザインが印象的。ミュージシャンの顔をジャケットに登場させるようなことはしない。インパクトのある作品ではないけれど、ウォルター・デイヴィス・ジュニアの魅力の一端を感じることができる良作。やはりJazz Cityレーベルはいい仕事をしている。