ヴァレリー・ポノマレフのハードバップ

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トランペットの音はクリアでストレート、不良っぽさは微塵もない。
クリフォード・ブラウン系とはいえ、ヴァレリー・ポノマレフはリー・モーガンフレディ・ハバードといったジャズの本流をいくミュージシャンとは毛色が違うミュージシャンだ。
ジャズメッセンジャーズ時代の演奏は『In This Corner』や『Heat Wave』で聴くことができるが、悪くはないものの、とくに印象に残るわけではない。あの時代のメッセンジャーズのモーダルで熱気あふれるサウンドには今ひとつマッチしなかったと思う。

このリーダー作では、保守的なハードバップフォーマットで美音をのびやかに聴かせる。抜群のテクニックで早いパッセージもバラードプレイも完璧にこなす。ジョー・ヘンダーソン、ケニー・バロンらサイドには名手を揃え、完璧な仕上がりだ。

文句のつけようがない作品だが、なにかが足りない。マイルスの革新性、リー・モーガンの不良っぽさとアクの強さ、チェット・ベイカーの妖気、トム・ハレルの詩情、ドン・チェリーの自由さ‥‥なんでもいい。

土着性や体臭のようなものが消し去られたヴァレリー・ポノマレフのトランペットは、優等生の模範演技を聴かされているよう。ジャズミュージシャンの場合、優等生であることは致命的な欠点になってしまう。やはりジャズは無防備であやうい個性を味わいたい。