東京の平均年齢とジェイムス・ウィリアムス

日曜、しばらくぶりに新宿へ出た。春の陽気だったこともあり、蔓延防止措置などどこ吹く風で街は人で溢れかえっていた。街がひどく騒々しく感じられ、まもなくコロナ前の喧騒に戻るのかと思うとゲンナリしてしまう。出歩いているのは若者ばかりで、街が浮ついていて落ち着きがない。世界情勢に心を寄せる気配も緊張感もまったくない。
そんなこんなで、休日に都心の繁華街には行ってはいけないということを痛感した。近所を散歩し、積み上がった本を読むという休日の過ごし方をすべき年齢なのだろう。

東京は若者ばかり、平均年齢は30歳くらいなのではと思い、さっそく調べてみた。すると意外にも東京都の平均年齢は2020年現在で45.3歳だという。ちなみに1970年現在では30.2歳。50年間で15歳も街が老齢化したことになる。劇的な変化であり、1970年当時いかに街には若者が溢れかえっていたかがわかるデータでもある。

1970年代は若者のエネルギーが爆発した時代とされる。東京の平均年齢が30歳なら、自然なことに思える。平均年齢がある程度、時代の思潮を表わすとすれば、現在は45歳ぐらいの価値観や考え方が社会を規定していることになる。新自由主義や維新が幅をきかせているのもむべなるかなだ。精神年齢は30歳くらいだろうか。
いろんな面で日本は成熟しなければならない。歴史と伝統が成熟への道しるべになる。まずはそのことを十分理解する必要がある。

歴史と伝統に根ざしたジャズを。

The James Williams All Stars
Cldassic Encounters!
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ジェイムス・ウィリアムスが亡くなっていたのを知ったのは、しばらく後のことだった。マルグリュー・ミラーと並んで1980年代から1990年代のジャズシーンを牽引した素晴らしいミュージシャンだった。
この作品はスタンダード曲を素材に、トランペット、ギター、ボーカルが華を添えるバラエティに富んだ構成。どの曲もジャズの伝統を感じさせる落ち着いた演奏で飽きさせない。派手さはないけれど、深みのある名作だと思う。若い頃に聴いていたら、つまらないと思っていたかもしれない。歳をとることは悪いことではないのだ。

極東のジャズ1974

鈴木勲 blue city
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ベーシストの鈴木勲が亡くなった。新型コロナウイルスに感染したことによる肺炎という。高齢での感染が致命的だということをあらためて思う。遺族を思うと、なにも最後にコロナに感染しなくてもと思ってしまうが、思うように生きた結果ということだろうか。享年89。合掌。

ジャズの名盤ガイドブックなどでは鈴木勲の代表作としてTBMの『Blow Up』が取り上げられることが多い。ただ、とっ散らかったところがある作品で、よりポピュラーなのは『Blue City』のほうではないかと思う。
『Blow Up』を初めて聴いたのは、吉祥寺のジャズ喫茶「A&F」。かかるのは「Play,fiddle,play」 の入ったB面のほうだった。昭和歌謡のようなムードをもつこの曲は一度聴いたら忘れられない。続く表題曲「Blue City」もブルージー。A面には「Sweet Love Of Mine」と同じ曲である「45th Street」も収録されている。
アルバム全体が湿り気たっぷり。発表は1974年。半世紀近く前の日本でしか生まれ得ない極東のジャズがパッケージされている。

ポピュリズムと独裁者

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TBS「サンデーモーニング」での寺島実郎の発言に、ハッとさせられた。ウクライナは一方的な被害者ではなく、コメディアンを大統領に選んだポピュリズムが招いた帰結だと指摘したのだ。このような発言をテレビで聞くこともなくなってしまったが、鋭い見方だと思う。

国家のリーダーには見識としたたかさが必要なことは言うまでもない。ましてやギャンブルに出てはいけない。プーチンの本気度を読み違い、欧米諸国に助けを求めるも逆効果になった。ウクライナの大統領は下手なギャンブルに出て失敗したのだ。
暗愚な人物をリーダーに選んだウクライナは、ポピュリズムによって国家が滅びるという現実に直面している。メディアではロシアが一方的な侵略者となっているが、国際関係は善悪の問題ではない。ここに至ったウクライナ政府の無能ぶりは絶望的だ。

寺島実郎の発言はウクライナと同じ道を歩みかねない日本へ警鐘を鳴らしたものにほかならない。コメディアンが先導するポピュリズムと独裁は同床異夢。手を取り合ってやって来て破滅へ導く。
大阪や名古屋を見ると日本も同じ道を歩んでいることは明らかで暗澹たる気分になる。しかも暗愚の度合いはゼレンスキーよりも格段上。救いは利権しか頭にないスケールの小ささかもしれない。

デビュー作とは思えない風格

delfeayo marsalis pontius pilate's decision
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マルサリスファミリーの五男、デルフィーヨ・マルサリスの1992年デビュー作。聖書を題材にしたものらしいが、構える必要なく純粋にジャズとして楽しめる。
1曲目から強烈なトランペットソロに圧倒される。クレジットはないけれどウィントンに間違いない。ウイントンは4曲目でも素晴らしいブルースを聴かせる。豪華メンバーが集結して緊張感ある演奏を繰り広げ、セッション的なお気楽さは全くない。
偉大な兄の磁場にいるのは間違いないが、どこを切ってもブルースが満ち溢れていて、頭でっかちな小難しさはない。デビュー作とは思えない高い風格と肉感的なサウンド。さすがマルサリスファミリー。

自分なりのスローライフを

いよいよ田舎暮らしの準備を始めた。
まずは土地からと、地元の不動産屋を頼って土地探しをしてみたものの成果はなく、自分でしつこくネットをチェックするしかないようだ。
土地が決まらないと家づくりも進められない。とはいえ、ハウスメーカーの違いも勉強しないといけないので住宅展示場に出かけてみた。

モデルハウスはどこも魅力的だし、事例も当たり前ながら贅沢なつくりをした家が良く見える。もう少し資金に余裕があればなぁと思うけれど、好き放題楽しんで暮らしてきたのだから仕方ない。

モデルハウスを見ていると、当初は考えていなかった薪ストーブや土間が素敵に感じ、一段下げたリビングが居心地よく思えてくる。和室を小上がりにするのも良さそうだ。ブレまくったあげく、いいとこ取りしてしまえばチグハグな家になってしまう。必要なことを整理してまとめ上げる作業は、自分の価値観や暮らし方を根本から問い直すことになる。

Crosby, Stills, Nash & Young / deja vu
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テレビを見ていたらCSN&Yの「Our House」が流れてきた。久しぶりにアルバムを取り出して聴いたら、ずいぶん古く感じられた。
時代は変わる。自分も変わる。あせらずゆっくり時間をかけて考えていこう。

年々ミンガスが好きになる

charles mingus plays piano
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一度処分して後に再購入した盤がいくつかある。これはそのうちの一枚。最初に入手したのはかれこれ30年ほど前になる。紙ジャケットを塩ビケースに入れる仕様だった。
当時はディスクガイドブックを頼りに名盤を片っ端から聴いていた。ミンガスの代表作とされていた『直立猿人』も聴いてみたものの、どこが良いのかさっぱりわからなかった。
このアルバムは当時再発されたばかりで、ピアノなら聴きやすいかもと思って買ってみたものの、ソロピアノが退屈に感じてしまい、すぐに処分してしまった。

言い訳がましくなるけれど、ミンガスは有名なジャズジャイアンツのなかで最もハードルは高いミュージシャンかもしれない。サウンドはエリントン以上に臭みが強いし、ベースという楽器はソロを楽しむものでもない。そのうえ『直立猿人』だとか「フォーバス知事の寓話」を収録した『ミンガス・プレゼンツ・ミンガス』が代表作に挙がる。これがまたミンガスを遠ざける。ミンガスの入門盤は『道化師』『ミンガス・アー・アム』あたりにすべきだろう。

さて、その後、めでたくミンガスが好きになり、ミンガス作品のコレクションも増えた。とりわけimpuls時代は傑作揃い。ミンガスが心身ともに充実期を迎えていたことを知った。
そこでかつて処分してしまったこのソロピアノ作をあらためて入手したのだけれど、以来、この作品への愛着は深まっている。
意外なほどに癖のないピアノは聴きやすいし、取り上げている曲も良い。ミンガスのつぶやきを聴いているような気分になるのだけれど、そこからミンガスの人間性が伝わってくる。生真面目で内省的で、哀しみをたたえた孤独な姿が迫ってきて愛おしい。ミンガスミュージックの元となるスケッチのような作品だけに、ミンガスを等身大で身近に感じることができる貴重な作品だと思う。

この時代遅れの硬骨漢を再評価する機運が生まれたら、社会はより良くなりそうな気がしている。今年はミンガス生誕百年。よい機会だが果たして‥‥。

ウエストコーストジャズは嫌いでも

The Nature of Things Lenny Hambro Quintet
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アルトサックスは楽器のなかでとりわけ音色が重要。オーネット・コールマやジョニー・ホッジズの色っぽい音にはうっとりしてしまうし、反対にヴィンセント・ハーリングは生理的に受け付けない。
アルトはやっぱりチャーリー・パーカーのように軽やかにさえずってもらいたい。そのうえバラードプレイが上手くなければならない。
その点レニー・ハンブロはいい。音は少し軽めだけれど、バラードプレイになると艶っぽいし、素直な歌い方で情感を表現する。

このアルバムはギターを加えたクインテットで、ウエストコーストジャズ風の軽快なサウンドながら、エディ・コスタのゴツゴツしたピアノがアクセントになっている。3曲目と9曲目のバラードがなにしろ絶品で、この2曲が作品としての価値を高めている。
今どきのアルトは、Will VinsonにしろImmanuel Wilkins にしろ、ケニー・ギャレット系の音を出す人が多く感じる。軽やかで美しい音色のレニー・ハンブロのアルトが新鮮に響く。