年々ミンガスが好きになる

charles mingus plays piano
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一度処分して後に再購入した盤がいくつかある。これはそのうちの一枚。最初に入手したのはかれこれ30年ほど前になる。紙ジャケットを塩ビケースに入れる仕様だった。
当時はディスクガイドブックを頼りに名盤を片っ端から聴いていた。ミンガスの代表作とされていた『直立猿人』も聴いてみたものの、どこが良いのかさっぱりわからなかった。
このアルバムは当時再発されたばかりで、ピアノなら聴きやすいかもと思って買ってみたものの、ソロピアノが退屈に感じてしまい、すぐに処分してしまった。

言い訳がましくなるけれど、ミンガスは有名なジャズジャイアンツのなかで最もハードルは高いミュージシャンかもしれない。サウンドはエリントン以上に臭みが強いし、ベースという楽器はソロを楽しむものでもない。そのうえ『直立猿人』だとか「フォーバス知事の寓話」を収録した『ミンガス・プレゼンツ・ミンガス』が代表作に挙がる。これがまたミンガスを遠ざける。ミンガスの入門盤は『道化師』『ミンガス・アー・アム』あたりにすべきだろう。

さて、その後、めでたくミンガスが好きになり、ミンガス作品のコレクションも増えた。とりわけimpuls時代は傑作揃い。ミンガスが心身ともに充実期を迎えていたことを知った。
そこでかつて処分してしまったこのソロピアノ作をあらためて入手したのだけれど、以来、この作品への愛着は深まっている。
意外なほどに癖のないピアノは聴きやすいし、取り上げている曲も良い。ミンガスのつぶやきを聴いているような気分になるのだけれど、そこからミンガスの人間性が伝わってくる。生真面目で内省的で、哀しみをたたえた孤独な姿が迫ってきて愛おしい。ミンガスミュージックの元となるスケッチのような作品だけに、ミンガスを等身大で身近に感じることができる貴重な作品だと思う。

この時代遅れの硬骨漢を再評価する機運が生まれたら、社会はより良くなりそうな気がしている。今年はミンガス生誕百年。よい機会だが果たして‥‥。