ミンガスの遺伝子

rodney whitaker children of light
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DIWは力作ぞろいで、世界に誇れるレーベルといえると思う。これもそのひとつ。ジェームス・カーターが大暴れし、ロドニー・ウィテカーの重厚なベースがバンドをグルーヴさせる。

1996年の作品だが、2010年の大西順子の傑作『バロック』とまるで兄弟盤のよう。大西はこの作品を聴いていたはずで、かなり感化されたのではないだろうか。

デビュー作ということで若干とっ散らかった感はあるものの、聴きごたえ十分。リーダー作はこれしか聴いていないが、録音機会さえあればどんどん質の高い作品を残してくれるだろう。ミンガスの遺伝子を受け継ぐベーシスト、ロドニー・ウィテカーに期待したい。

情念のオルガン

小学校低学年までは、オルガンを伴奏にして日常的に歌を歌っていた記憶がある。朝夕の始まりや終わりに先生がオルガンを弾き、子供たちが歌う。オルガンの音はそんなノスタルジックな光景とセットになっている。
米国人にとっては教室ではなく、教会がオルガンとセットなのかもしれない。だとすれば、日本人が思う以上に身近な楽器ということになる。

ジャズのオルガン奏者といえばジミー・スミスだけれど、個人的には弟子のKANKAWAのほうが体質にあう。翻訳されたサウンドのほうがオルガンは馴染みやすいのかもしれない。

KANKAWA organist
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KANKAWAの諸作のなかでもこのアルバムには特別なムードが漂っている。カタカナで「ソウル」というよりも、日本語で「情念」といったほうがぴったりくるような哀感、極限までスローに落とすことで深く沈み込んでいくようなエロティシズム。これほどディープなジャズはなかなかない。

サンダースの手袋

大統領就任式に出席したバーニー・サンダースの服装が米国で話題になった。高級ブランドを纏った出席者たちのなかで、普段着のコートに手づくりの手袋という質素なファッションは「まるで郵便局にきたおじいちゃん」と報じられた。
賛否両論のようだが、個人的にはとてもチャーミングに感じた。このブレない姿勢こそ、バーニー・サンダースが多くの支持を集めている理由に違いない。

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かつて日本で「清貧」という言葉が流行ったが、米国でのこの清貧ぶりは、American dreamの終焉を体現しているようにも思う。

社会的弱者の側に立つサンダースと、白人労働者から熱狂的支持を得るトランプは、反エスタブリッシュメントという点で通底する。GAFAを支持母体とする民主党がバイデンのもとでトランプ支持層と融和し、結束にもっていくには、まずサンダースを重用することができるかどうかにかかっているような気がしてならない。
さて、日本にバーニー・サンダースはいるだろうか。

異形のソニー・クラーク集

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ソニー・クラークへのリスペクトが詰まったこの作品は、ジョン・ゾーンのアルトの切れ味とグルーヴ感が痛快で楽しい。
ソニー・クラークの曲はイナたいというか、ちょっと垢抜けないところがある。ベニー・グリーンのアルバムはそのまんまだったが、こちらは一筋縄ではいかないミュージシャンたちによって一風変わった現代的ハードバップに仕立てられている。

これを入手したのはアナログ時代の最後のころだった。食費を削って暮らしていたころだから、新作LPを買うのは珍しかったはずで、かなり気に入っていたのだと思う。
イナたいどころか田舎者そのまんまの人間にとって、ジョン・ゾーンはわかりやすかった。CD化されて買い直し、いまだに聴いているのだから、あまり変わっていないのかもしれないが。

ベニー・グリーンの呑気さ

bennie green
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刺激や興奮とは縁遠い。テクニックで唸らせるわけでもない。ある種の緩さがベニー・グリーンの持ち味であり魅力だ。

演奏に覇気はなく、凡庸といえば凡庸。原因はリズム陣にある。なかでもソニー・クラークは精彩を欠いている。でも、リーダーのトロンボーンは安定しているし、ジミー・フォレストは絶好調。ソニー・クラークがピアノを弾くだけでなく曲を提供したことで、ベニー・グリーンの能天気さが抑えられ、ほどよい仕上がりの愛すべき佳作となった。

能天気ではないけれど呑気。こんな時代だからこそ、求められていることかもしれない。政府が能天気ではどうしようもないけれど。

静かな街で質素に暮らす

1か月ぶりくらいに会社に行った。8日に緊急事態宣言出てからはスーパーに行く程度で、電車に乗るのもほんとうに久しぶりだ。その電車からは額面広告がほとんどなくなっている。

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街にはそこそこ人はいるものの、通常に比べると相当少ないので、ストレスを感じることもない。なにより、集団行動する人がいないので、街が静かで落ち着いている。

活気がないのは確かだけれど、一方で過剰さはすべてにおいて良い結果をもたらさない。環境問題はその端的な例だ。

ポスト・コロナの世界は、よりシンプルで機能的な暮らしが基本になるのだろう。街から広告が消え、ラジオが復権するかもしれない。

心なしか、このところ東京の空が澄んでいるように感じる。不謹慎かもしれないが、こんな東京、悪くないぞと思った。

大衆芸能としてのソニー・クリス

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ソニー・クリスはジャズを聴き始めたばかりの人にも受け入れられる大衆性を備えている。演歌っぽいといえば言葉が悪いが、ブルージーといえば急にかっこよく思えてくる。「日本は言霊の国」という井沢元彦の見立ては正しい。そんな日本人の特性を上手く利用しているのが、学歴詐称都知事ということになる。

それはそれとして、このアルバムは『Saturday Morning』と並ぶ名盤だ。ホレス・タプスコット作曲の2曲「the isle of celia」「this is for benny」をソニー・クリスがちょっとせつないアルトの節まわしで歌い上げるのがたまらない。
この2曲は名曲。ホレス・タプスコットはピアノなんか弾かずに作曲に専念したほうが良かったのにとつくづく思う。

ソニー・クリスが好きだというのは、大衆芸能が好きだと告白するようなもので、ちょっと気恥ずかしい。たとえるなら、純烈のファンだと告白する感じに近い。
そういえば、純烈、好きだなぁ。