アウト・オブ・ザ・クール

NHK「英雄たちの選択」でナビゲーターの磯田道史が「社会を変えるには気魄や執念といったものが要る」といった主旨の発言をしていた。
いま、このようなことを言う人は少ない。当たり前のことながら、真正面から直球を投げられたようでドキッとした。

日本の凋落は、気魄や執念をもつ人があまりに少ないことが遠因にある。精神論を否定し価値相対主義に傾いたまま、三島由紀夫が言うとおり空っぽで損得勘定で動く人間ばかりになってしまった。自分の立場を守ることに必死な人間が企業に溢れ、管理が肥大化して社会全体に息苦しさが蔓延している。

自分を勘定に入れず熱い気持で未来を開く人材が次々に誕生するようになれば日本は変わる。「アウト・オブ・ザ・クール」しなければならないときなのだろう。

gil evans out of the cool

Verve時代のギル・エヴァンスは優雅で繊細かつダイナミック。アレンジャーとしてピークにあったと思う。
Verve第一弾は『Out Of The Cool』。その後ギルが進む方向を宣言したタイトルだ。とはいえ、この作品のサウンドは知的でクール。『The Individualism of Gil Evans』で完成をみる深遠なムードに包まれている。
1970年代以降ギルは自由度の高いオーケストラサウンドを追求、ロックにも接近していく。晩年率いたマンディナイトオーケストラはクールとは対極の野生的なサウンドが魅力的だ。
計算された緻密でクールなサウンドから、スポンティニアスでホットなサウンドへと変化していったギル・エヴァンス。その足跡に音楽家としての真摯な姿を見る。

上はウィリアム・クラクストン撮影の写真を使用したジャケット。下はお馴染みのジャケット。この2つのジャケットを店頭に並べて、売れゆきの違いを検証したい欲求に駆られる。