ロストセッションの名盤

Stan Getz Bossas & Ballads The Lost Sessions

ロストつながりで「ロストセッション」を取り上げようと思う。スタン・ゲッツ晩年の1989年録音、発売は2003年。14年をほどお蔵入りしていた音源だ。シンプルなタイポグラフィのキリッとしたジャケット、選曲、そして最高のパートナー、ケニー・バロン。悪かろうはずはない。

ケニー・バロンをパートナーに迎えてからのスタン・ゲッツは水を得た魚のよう。インプロヴァイザーとして凄味を増し、次々と傑作を残した。バロンとの作品はほとんどが名盤だが、この未発表作もゲッツのキャリアを通じて最高傑作の一枚といって良いと思う。
9曲中5曲がケニー・バロンのオリジナル曲で、どれもが哀感を帯びた良い曲ばかり。そのほかの4曲もサド・ジョーンズマル・ウォルドロン、サム・リヴァース、ラス・フリーマンといったジャズマンのオリジナルでまとめている。ミディアムスローの曲が多くアルバムとしてのまとまりも良い。選曲はおそらくケニー・バロンではないかと思うが、実にシブい仕事ぶりだ。

内容が良いにも関わらず、お蔵入りした音源があるのはブルーノートに限らない。とはいえ、これほどの演奏をお蔵入りさせたのは解せない。プロデューサー、ハーブ・アルパートの見識を疑う。
ハーブ・アルパートといえば、『ライズ』で大ヒットを飛ばした人だが、そのポップセンスはスタン・ゲッツの音楽とはシンクロしなかったようだ。「オールナイトニッポン」のテーマ曲もこの人。ジャンルの境界を超えるポップさを企図したのかもしれない。
そんな狙いは外れ、お蔵入りしてしまったが、14年後とはいえ幸いにも世に出た。未発表作ということで注目度は高くないし、発売時、話題になった記憶もないけれど、これは文句なしの名盤。