ズレと揺らぎのスイスジャズ

matthieu michel featuring richard galliano ESTATE

スイスのトランペッター、マシュー・ミッシェルの1995年作。リーダーは無名だがティエリー・ラングやリシャール・ガリアーノが参加しているので、そちらを目当てにした人が多いはず、というかほとんどかもしれない。自分はメンバーよりも収録曲に惹かれて入手した。リッチー・バイラークのオリジナルで始まり、ヘンリー・マンシーニで終わる全10曲は興味深い選曲だし、なにしろ「ESTATE」が入っている。ガリアーノが参加しているので、オシャレに仕上がっていそうだ。

ほぼイメージどおりの演奏ではある。「ほぼ」というのは、全体のサウンドにどこか妙なズレや揺らぎがあって、一筋縄ではいかないところがあるからだ。
ドラムとフリューゲルホーンのコンビネーションには違和感があるし、フリューゲルホーンはフランコ・アンブロゼッティに近く、時折エンリコ・ラヴァのようにアウトする。ラヴァほど、とんがっているわけではなく微妙に不安定。まろやかなフリューゲルホーンを軸としたサウンドながら心地良さだけでは終わらない刺激がある。
一方、ティエリー・ラングはさほど目立たないものの、さすがの存在感。8曲目の「Caruso」での美しいピアノにはため息が出る。

このズレと揺らぎは多言語・多文化共生国家スイスらしさなのかもしれない。知的で味わい深い佳品。