健康的なチェットの凄み

chet baker diane

このSteepleChase盤を入手したのは最近のこと。録音は1985年、ホテルの窓から墜落死する3年前だ。この年の録音には良盤が多く、心身ともにチェットは良い状態だったことがうかがえる。

入手が遅れた理由はいろいろ。
まずSteepleChaseというレーベルに良い印象がなかった。ジャケットが食指をそそらないうえに、録音もよくないイメージを持っていた。
おまけにこの作品はデュオで、相手がポール・ブレイ。腐臭漂う演奏も少なくないチェットのこと、ポール・ブレイ相手にヨレヨレの演奏をしているに違いないと思い込んでいた。

これがとんでもない間違いだった。
ここでのチェットは神がかっているといっても言い過ぎではないように思う。
この人がシラフでかつ真剣に演奏すると、こんなに素晴らしいのかと改めて感服した。
神様は美しい音楽を演奏する能力と引き換えに人格を破綻させてしまったのではないかと思ってしまう。

録音も素晴らしい。チェットの他のSteepleChase盤とはトランペットの音がまったく違う。
ジャケットとアルバムの構成が今ひとつではあるけれど、これは名盤。