知られざるケニー・クラーク

kenny clarke klook's clique

ケニー・クラークのリーダー作なのに、ジャケットには無名のアルト奏者が大きく写っている不思議なサヴォイ盤。当時ケニー・クラークは、サヴォイレーベルのハウスドラマー兼ミュージシャン発掘担当だったことから、新人の売り出しを図ったということらしいが、なんとも理不尽だ。

小川隆夫『レーベルで聴くジャズ名盤1374』によれば、サヴォイの設立者兼オーナーはドケチなユダヤ人で、肝心のコンテンツは責任者を雇い、自らは経営に徹していたという。大手ジャズレーベルが次々と消えるなかでサヴォイが長らく生き延びることができたのは、そうした経営によるところが大きかったと、小川隆夫は記している。

ケニー・クラークが絵に描いたようなユダヤ人経営者にうまく利用されたのかどうかわからないけれど、サヴォイの屋台骨を支えて地味ながら良い作品を送り出したことは紛れもない事実で、これもその一枚。
トリスターノ門下のロニー・ボールを迎えて、クールで洗練された演奏を聴かせる。スタンダードの「yesterdays」ではアルトのジョン・ラ・ポルタが独特の世界を展開しているし、鈴木勲がスリーブラインドマイスに残した名盤『Blue City』で有名な「play,fiddle,play」も軽やかで飽きのこない好演。単に"モダンジャズドラムの開祖"にとどまらないケニー・クラークの奥深さを感じさせる。

サヴォイでの仕事は彼にとって幸福をもたらすものではなかったのかもしれない。侮りがたい魅力を放つ不思議な好盤であるこの作品を残して、まもなくケニー・クラークは祖国を離れ渡欧した。米国に留まっていれば、ジャズの歴史はいくぶんか違ったものになっていたのではないだろうか。

孤児院で育ったケニー・クラークは若くしてイスラム教に改宗している。カーメン・マクレエと結婚したりアーニー・ロスと浮名を流したりと、なかなかのモテ男だった。その人物像と能力は奥深い。