10年ぶりの再訪

巣ごもりしているのも馬鹿らしくなったので、思い立って有給休暇をとり、温泉に行くことにした。選んだ宿は長野の鹿教湯温泉、三水館。

松本に立ち寄り、お昼ごはんに蕎麦屋を探す。中心部の中町通りから南に入ったところにある「野麦」という人気の店を訪ねてみることにした。

f:id:milesmode:20210607213433j:plain

開店直後の11時半を少し回った時点ですでに満員になっていて店の外で待つことに。
この店、メニューは、ざる蕎麦と酒のみという潔さ。コロナで酒も出せないので、ざる蕎麦のみ。メニューが少ないので回転も早く、ちょっと待っただけで無事入店できた。かみさんと2人で、1人前と大盛を注文。待つこと5〜6分ほどでそばが出てきた。

f:id:milesmode:20210606202259j:plain

戸隠でつくられたという美しいざるに、細切り蕎麦が盛られている。刻み海苔はついていないが、これは間違いなくざる蕎麦だ。見た目どおりにコシがあって美味しい。蕎麦とはこういうものと教えられたような気がした。

食後、三水館へ向かう。
この宿は10年ほど前に、一度訪れたことがある。宿の名物猫、にゃん蔵と一緒に寝るという幸運に恵まれ、食事も美味しかったのだが、当時は喫煙していたこともあって、どことなくストイックな雰囲気を窮屈に感じたことを覚えている。その後、気にはなっていたけれど、いつも予約がいっぱいで再訪することができなかった。

久しぶりに訪ねて、あらためてこの宿の素晴らしさに気付かされた。木曽福島の古民家で使われていた材木を再利用したという建物は、飾り気がなく美しい。建屋内は陰翳に富み、そこかしこに置かれた一輪挿しが映えている。よく手入れされ、古びた印象はまったくない。
印象がかなり違ったのがお風呂。前回訪れたのは冬だったが、今回は初夏。緑に囲まれた露天風呂の気持良さは格別だ。

f:id:milesmode:20210608091712j:plain
f:id:milesmode:20210608091729j:plain

料理がまた素晴らしい。野菜と山菜を中心にした料理は、どれも手間がかかっていて丁寧。素材を生かした優しい味だ。この日のメイン料理は破竹の筍を使ったグラタン。バターを使わず菜種油を使っているとのことで、さっぱりした味に仕上げている。
どこにもない、この宿だけの料理は、以前から定評があったが、さらに磨きがかかったような気がした。

f:id:milesmode:20210607222025j:plain

以前窮屈さを感じたのは、オーガニックで禁欲的な空気感に思想性を感じたからで、とりわけ館内に飾られた井崎正浩という木工作家の作品に宗教臭さを感じたことが大きい。何をもってそう感じるのかわからないのだけれど、自分の中にある宗教への拒否感が反応したようだ。
それが今回はあまり気にならない。宿には変わらぬ思想があるけれど、それは自分にとって心地良く感じられた。受容性が高まったのか、自分にとって心地良いものとそうではないものが先鋭化しているのか、よくわからない。確かなのは、10年という歳月で人間は変わるということだ。気づかないのは自分だけかもしれない。