菊地雅章の到達点

菊地雅章について語るのは難しい。
簡単に好きとは言えないし、さまざまな面があって得体のしれないところがある。そもそも好きとか嫌いといった対象にはさせない気配を纏っている。それが鬱陶しいと感じたなら、嫌いということになるが、それは音楽から離れたものであって本質的ではない。
こんなどうでもいい、ややこしいことを考えさせるのが菊地雅章なのだ。

菊地の最高傑作は『SUSUTO』と相場が決まっている。たしかに傾聴に値する作品ではあるけれど、エレクトリック・マイルスの強い磁場にある時代の産物で、菊地の代表作とするには抵抗を感じる。

菊地雅章を聴くならピアノソロがいい。

melancholy gil 菊地雅章
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90年代なかば以降のソロ作品群は、どれも深夜一人で聴かなければならないような深刻な孤独感に満ちている。なかでもこの作品は名曲揃いで菊地の最高傑作にあげたい。ここでの菊地は、晩年のビル・エヴァンスの諦念に通じる境地にいる。

ジェームス・テイラーのアメリカ

マイケル・ブレッカーの『Nearness Of You』を聴いていたら、久しぶりに聴くジェームス・テイラーの歌声がとても心地良く響いた。JTの場合、曲がどうのとかではなく、優しい歌声を聴いているだけで癒される。

早いものでもうすぐ10月も終わろうとしている。11月初旬にはアメリカ大統領選の投票が行われる。アメリカが正常な国家になるような結果を期待したいところだが、トランプ支持者たちの様子を見ていると、未来は決して明るくない。いったい世界はどこで道を誤ったのだろうか。ジェームス・テイラーの歌声のようなアメリカは何処へ行ってしまったのだろう。

james taylor october road
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日本ではトランプを支持する報道は見られない。とんでもない人物が大統領になっているという姿勢で報道されている。でもちょっと引いてみれば、日本も、たいして変わらないということに気づく。橋下徹を支持するのはトランプ支持者と何ら変わらない。

無敗の三冠馬の誕生

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単勝1.1倍という人気を背負ったコントレイルが叩き合いを制して菊花賞を勝った。外からルメールアリストテレスに合わせられて差されそうだったが、最後まで抜かせなかったあたりが並の馬ではない。
史上3頭目の無敗の三冠馬は父にそっくりの優等生。ディープインパクトは最後に最高傑作を出した。コロナで競馬場に行けないせいで、歴史的名馬の誕生にもかかわらず残念ながら高揚感がない。
でも売り上げは前年比130%だという。競馬はコロナ下でも最強だ。

Go Toキャンペーン狂想曲

Go Toトラベルキャンペーンに都民割というのが加わり、都内の高級ホテルに格安で泊まれるようだ。高級ホテルは今や予約で一杯らしい。
得することに目ざといことは非難されることではないとはいえ、下品という言葉が浮かぶ。税金を使っていったい何をやっているんだろう。贅沢な消費に税金を投入するのは、制度設計の背景にある考え方がおかしいからだ。こんな政権は一刻も早く倒さねばならない。
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『鬼滅の刃』と格差社会、同調圧力

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大ブームの『鬼滅の刃』TVアニメ版26話分を見てしまった。かみさんがAmazonプライム会員のおかげで、おこぼれに授かることができたのだが、ブームになった要因の一つに、テレワーク中にAmazonプライムで見たという人が結構いるように思う。

断っておくと、テレワーク就業中に『鬼滅の刃』を見たわけではない。普段は家にいるはずのない時間に家にいることで、流行りのアニメをみる余裕が生まれたのだ。
自分を棚に上げるようだが、テレワークは格差を拡大させている面がある。本来テレワークが普及することで社会全体にメリットが生まれるはずが、一部だけが恩恵を享受している。まるで悪夢のなかで悪い夢を見ているかのようでどうにも気持ちが悪い。

さて肝心の『鬼滅の刃』だが、那田蜘蛛山での鬼との闘いは緊張感があって素晴らしかったし、登場する鬼がユニークでたしかに面白い。でも、正直なところ那田蜘蛛山編を除けば、ブームになるほどのワクワクするストーリーではないし、完成度も高いとは言えないと思う。これだけのブームになったのは、いったん火がついて学校で話題になれば、見ないわけにもいかないということではないだろうか。同調圧力はどんどん高まっている。

こんなこと考えながら見てたら、そりゃあ楽しめないのも当たり前だよなぁ。

近藤等則逝く

近藤等則が亡くなった。

近藤等則はバブルの頃、IMAというバンドを率いて先鋭的なサウンドを繰り広げ、注目を浴びていた。CMにも起用されるなど、スタイリッシュなミュージシャンという印象だった。
当時は彼の演奏をあまり聴いたことがなかったが、後年DJ KRUSHというミュージシャンと共演した『記憶』を聴き、マイルスの正統的後継者は近藤等則かもしれないと思うようになった。

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2015年に出た久しぶりのリーダー作『you don't know what love is』でも、スタンダードを素材にエレクトリックトランペットで近藤にしか出来ない未来的サウンドを聴かせてくれていた。このところ精力的に活動しはじめていただけに、いろんなミュージシャンとの共演が見たかった。71歳という若さでの死は残念に思う。

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変な話だが、近藤等則というと1997年のシルクジャスティスが勝った有馬記念を思い出す。中山競馬場で出走前のファンファーレを近藤がソロで吹いたのだが、アヴァンギャルドな演奏は場違いも甚しいものだった。近藤を知らないかみさんは、「なにこれ、馬だって気分が悪くなる」とのたまったが、競馬ファンのたいていはそんな受け止め方だったように思う。

団塊の世代で京大出のインテリ。創造への闘志が空回りするようなところもあったが、ジャズミュージシャンらしい硬骨漢だった。
孤独感漂うクールなラッパの響きは、時代を超えて刺さり続ける。