三十代の仕事

「サラリーマンの賞味期限は15年」という説がある。大卒で入社して15年、三十代後半で賞味期限が切れるというのは寂しい話だが、頷ける面もある。
優れた人は三十代に良い仕事をしている。逆にこの時期までに優れた仕事をしていない人は見込みがないともいえる。

ミュージシャンも同様で、気力も体力も漲る三十代に良い仕事をしている人は多い。キース・ジャレットがスタンダーズを発表したのは37歳、ハービー・ハンコックも37歳のときVSOPで精力的に活動を展開しはじめている。コルトレーンヴィレッジバンガードで壮絶な演奏を残したのも37歳だし、マイルスが黄金のクインテットを結成したのも37のときだ。
こうしてみると、三十代後半というのは大切な時期であることに気付かされる。
そんなことに思い巡らすことになったのは、このアルバムを聴いたから。

Marc Johnson Bass Desires

マーク・ジョンソンの初リーダー作で発表は1986年。最初から最後まで緊張感がみなぎる演奏が続く。1曲目からギュンギュン飛ばし、2曲目「至上の愛」へ。この演奏の迫力と創造性は空前絶後だ。
当時メンバー全員、三十代前半から半ばぐらいの壮年期。リーダーはもちろん、ビル・フリゼルもまだそれほど評価が確立していたわけではなかったように思う。いちばん名前が売れていたのはジョンスコだったのではないだろうか。
このメンバー、いまや巨匠クラスと言って間違いないだろう。
若い頃の優れた仕事は嘘をつかない。とりわけ近年のビル・フリゼルは圧倒的な存在感を放っている。この頃とは全く違う演奏をしているのも凄い。そして、マーク・ジョンソンのベースの音の素晴らしさにあらためて感服。個人的には現代最高のベーシストだ。