プリミティブなジャズの可能性

steve coleman genesis & the opening of the way
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大衆的人気を獲得することには成功していないものの、スティーヴ・コールマンはパーカー〜ドルフィー〜オーネットというジャズの革新性を受け継ぐ偉大なイノベーターであることは間違いない。音の艶っぽさはオーネットを思わせるし、感情を排したクールなアドリブフレーズはパーカー譲りで切れ味がいい。サウンドクリエイターとしてのみならずプレイヤーとしても一流だ。

そんなスティーヴ・コールマンもなんと65歳だという。キャップを逆さまにかぶるスタイルは変わっていないのだろうか。 2018年発売の『Live at the Village Vanguard Vol. 1』を聴く限り、相変わらずリズミックでかっこいい音楽を繰り広げており、ラジカルな姿勢は変わっていない。リズムへのこだわりは頑迷度を増してさえいるように思える。

コールマンの作品ではやはりこの世紀末の黙示録のような大作が欠かせない。1990年代末に発表されたこの作品は、2つのフォーマットでの演奏が収められている。どちらも素晴らしいが、リズムが複雑に交錯し、ソロイストが縦横無尽に駆けめぐる『Genesis』が好きだ。このプリミティブな響きに身を委ねていると、音楽はリズムだということを再確認する。
ロバート・グラスパーのような洗練されたブラックミュージックとしてのジャズではなく、カマシ・ワシントンのようなキッチュスピリチュアルジャズでもない、プリミティブな方向にジャズが向かうことはもはや期待できないのだろうか。この大作を聴きながら、そんなことを考えてしまった。

M-Baseの音楽は聴き手を選ぶ。旋律らしきものはなく、とっつきにくい。その革新性は無機質で体温を感じさせない音楽のあり方そのものにある。それを受け容れるかどうかは、ジャズにたどり着くまでの音楽体験によるのではないかと思う。そう考えると、ジャズはインテリの音楽になりすぎたのかもしれない。