the individualism of Gil Evans
ジャズを聴き始めてギル・エヴァンスの世界に最初に触れるのは、多くの場合、マイルスの「スケッチオブスペイン」ではないだろうか。
自分はそうなのだが、これがどうしても好きになれない。いくら名盤と言われても、アランフェスならジムホールのほうがはるかに好きだ。
「スケッチオブスペイン」で、ギルに対して苦手意識が生まれてしまい、その後、マンディナイトオーケストラやパブリックシアターで楽しめるようになったものの、ヴァーヴ以前のアコースティック時代には触手が伸びなかった。
本作も、ジャケットは地味だし、メンバーもよくわからんしで、聴いてみる気も起きずに無視していたが、「廃盤蒐集をやめるための甘美な方法」さんが絶賛しているのを読んで聴いてみたくなった。
いやー、なんて創造的で不思議な魅力を放つ音楽だろう。得体の知れない空気感が支配するなかで、次々と繰り広げられる変幻自在な音の森。いったん迷い込んだら抜けられない。ギルのほかの作品とも隔絶した高い完成度。ウェイン・ショーターをはじめとするソロイストたちも最高のプレイを聴かせる。
ギル・エヴァンスが魔術師と呼ばれる理由が理解できて、ようやく「スケッチオブスペイン」の呪縛から解かれた思いがした。