すべてを赦し、包み込む歌

坂本龍一の2019年のインタビュー記事が日経ビジネスのネットに再掲されていた。治療中はいっさい音楽を聴いていなかったが、体力が回復してからは、フランスの作曲家フォーレキューバの歌手、オマーラ・ポルトゥオンドの歌を聴いたと語っていたのが興味深かった。
ライ・クーダーがプロデュースした『Buena Vista Social Club』で素晴らしい歌声を聴かせたオマーラ・ポルトゥオンド。以来日本でも知られるようになり、来日公演も果たした。哀愁を帯びた歌声とゆったりとした歌い方はすべてを包み込むような慈愛に満ちている。彼女の歌を聴いたときに坂本龍一は思わず涙が出たという。
Omara Portuondo Buena Vista Socail Club Presents

ふと耳にしたら自分でも驚くほど涙が出たんです。彼女の声の魅力というのかな。(中略)
音楽を聴いて涙を流すなんてなかなかないので、自分でも驚きました。生のみなぎる力が声に出ていたんだと思います。

若い頃と歳をとってからでは感受性は異なるし、そのときどきの精神状態でも受け止め方はまったく違ってくる。ただ、男の場合、女性の歌声でなければ涙を流すことはないのは確か。白状すると、中島みゆきの『誕生』と美空ひばりの『愛燦燦』、この2曲で涙が出たことがある。
人生経験豊富な女性がすべてを赦して包み込むように歌う歌を聴くと、思わず涙がこぼれるときがある。それは観音菩薩に向かって手を合わせることに通じる気がする。