ビリー・ホリディを聴きながら

the sound of jazz

このアルバムはオムニバス盤でもコンピレーションでもなく、1957年のジャズシーンをとらえたテレビ番組のサウンドトラックだという。
編集が前面に立っているわけではないのだけれど、聴きごたえがあるのは、『ダウンビート』の編集者でジャズ評論家のナット・ヘントフがアドバイザーとして参加しているからだろう。バラエティに富むラインアップと貴重な音源が収録されており、当時の最新技術によってオールドスタイルのジャズが録音されている点も大きな魅力になっている。
とりわけ素晴らしいのがビリー・ホリディの『Fine and Mellow』。レスター・ヤングベン・ウェブスターコールマン・ホーキンスが揃い踏みする豪華なメンバーのなかで、レスター・ヤングの妖気漂う伴奏が異色を放っている。その素晴らしさは、ベン・ウェブスターコールマン・ホーキンスが凡人に思えるほど。
サウンドトラックとは演奏が異なるけれど、YouTubeでは番組の映像を見ることができる。レスター・ヤングの演奏についてはサウンドトラック収録バージョンのほうが良いけれど、ベン・ウェブスターコールマン・ホーキンスは番組映像のほうが良いし、ジェリー・マリガンも参加している。なにより高椅子に座って歌うビリー・ホリディの素敵さよ。表情は慈愛に満ち、とても2年後に世を去るとは思えない。

この作品の陰の立役者ナット・ヘントフは、2017年に老衰で91歳で逝去した。家族に見守られビリー・ホリディを聴きながら息を引きとったという。なんて幸せな一生だろう。