哀愁よろしく

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上京したころは椎名誠ブームで、本屋には彼の本が並んでいた。なかでも『哀愁の町に霧が降るのだ』はよく売れていたように思う。当時、純文学からノンフィクションに軸足を移していた自分は読むことがなかったけれど、椎名誠はなにかと話題に上がった。
あのころから時代は軽さへ向かい、「哀愁」という言葉も死語となった。バリー・ハリスのこの作品を聴いて、ふとそんなことを考えた。

バリー・ハリスハンプトン・ホーズのファンは、いまどれだけいるだろう。「哀愁」という言葉が死語になりつつあるいま、バップピアノの血脈は途絶えてしまいそうだ。
バップフレーズの魅力に嵌ると抜け出すことは難しい。曇天の空のように重たく甘さのない辛口のピアノが哀愁感を醸し出す。バリー・ハリスはそんなバップピアノの魅力を体現している。
バリー・ハリスザナドゥにのこした作品はどれも良作。別の言い方をすれば、どれも同じ。オリジナル曲を演奏したこの作品に手を伸ばす人はファン以外にはいないと思う。取り立てて出来が良い作品とはいえないけれど、そういう意味で愛着のある一枚。