職人が評価される国に

1950年代以降のジャズを追体験して一通り「お勉強」が終わると、自分なりのジャズ観が形づくられる。それが自分にとっては1990年前後。自我が確立したころの原体験が、その後に決定的な影響を及ぼすようなもので、この時期のジャズはしっくりと馴染む。

lewis nash rhythm is my business
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1989年作のこのアルバムは、発売時から評価が高かったが、今でも新鮮に響く。初リーダー作ながらルイス・ナッシュに気負いはない。派手なドラムソロを繰り出すことはないが、よく聴けば華やかさもある。
サウンドカラーを決定づけているのはマルグリュー・ミラー。何がどうすごいのか説明する言葉を持ってはいないのだけれど、この人がピアノにすわると、モダンで洗練されたサウンドになる。1曲目から新鮮なアドリブ展開と緻密なグループ表現が素晴らしい。

この後、ルイス・ナッシュのリーダー作は10年以上間が空く。その間も堅実にリズムを刻み続け、数々の名盤を演出している。その職人的なあり方は実にシブい。
かつての日本には、ルイス・ナッシュのような職人タイプがたくさんいたし、それを賞賛する風潮もあった。いまや変わり者扱いされるばかりで、職人文化は風前の灯。モノづくりを強みとするなら、職人的な生きざまをリスペクトすべきだろう。リスクヘッジや損得勘定からは何も生まれない。