低音楽器の愉楽

David Murray Ballads For Bass Clarinet
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1980年代末から1990年代の前半にかけて、デヴィッド・マレイはDIWレーベルから次々と快作を発表した。ちょうどバブルで、強い経済力を背景に海外アーティストの作品をリリースできた時代だったが、その咆哮は、軽佻浮薄な時代に対する異議申し立てのようにも聴こえた。

デヴィッド・マレイの諸作で異色を放つのがバスクラリネット一本で通したこの作品。「馬のいななき」といわれるドルフィーの演奏もいいけれど、ここでのマレイのバスクラは、より表現力が豊かで丁寧だ。
ゆったりとしたリズムに乗って繰り広げられるバスクラの音に浸っていると、異形の妖怪の世界に迷い込んだような気分になる。そこにいるのは優しくて気のいい妖怪たちだ。