黒部の秋

秋晴れの4連休はどこも大混雑だった模様。雷鳥沢キャンプ場ではトイレ待ちの大行列が出来てSNSで話題になっていた。キャンプ場で何が嫌かって、あれだけはほんとうに避けたい。とくに雷鳥沢は、隠れる場所もないので絶望的な気分になる。

今回そんな思いをすることなく山を堪能できたのは、それなりに経験を積んだからだろう。選んだのは、折立から入り太郎兵衛平から北ノ俣を経て黒部五郎へのトレイル。テントを背負って2泊3日のピストンだ。
このルートは途中に山小屋がないため黒部五郎まで歩き通さないといけない。そのため比較的人も少なく静かな山旅ができる、そう踏んだのだ。薬師峠から黒部五郎までトレランで往復する人が多いのは予想外だったが、混雑することはなく天気にも恵まれてのんびりと山旅ができた。
薬師や水晶を眺めながらの山旅は贅沢としか言いようがないが、このルートならではの眺望は、これかもしれない。

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黒部五郎、笠ヶ岳乗鞍岳御嶽山と名峰が揃って翼を広げる。それぞれが等間隔で並び、裾野の重なり方が美しい。偶然にしては出来過ぎで、神様が描いた構図のように思えてくる。日本中のどこからも、こんな光景は見ることができないはずだ。

黒部五郎のカールに降りたころには疲労困憊。陽が陰り始めたこともあって水遊びする元気もなくなっていたが、カールから見上げる岩壁はやはり大迫力。
ここにくると深田久弥の『日本百名山』の「伽藍」という表現の秀逸さを思い起こさずにはいられない。

「底から見上げたカールは実に立派である。三方を岩尾根に包まれて、青天井の大伽藍の中に入ったようである。すばらしい景色はどこにでもあるが、ここは他に類例のないすばらしさである。圏谷の底という感じをこれほど強烈に与える場所はほかにない。」

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黒部五郎は北アルプス最深部にあって下界からは姿を見ることが出来ない。北アルプスの峰々からは、ちょっと外れていて孤高を保っている。下界から隔絶した孤立峰というのは珍しいのではないだろうか。
その姿は秀麗さと厳しさを兼ね備え、三俣蓮華や鷲羽から見るとカールがひねりを加えてとりわけ美しい。そのカールを人知れず小川が流れ、楽園を囲っている。シャイで奥ゆかしい両性的魅力を持つ名峰だと思う。

三俣蓮華からの黒部五郎の勇姿を見れないのが残念だったが、復路を急がなければならない。赤木岳のアップダウンにゼェゼェいいながら13時40分太郎平小屋着、カレーライスをいただき14時20分に折立に向かって出発、17時に下山した。それから日帰り温泉でさっぱり洗い流して、家にたどり着いたのは25時40分だった。

テントでの山旅はこれでおしまい。さて来年はどうなることだろう。テレワークが進んで松本や富山に住んで仕事ができるようになれば、眠い目をこすりながらロングドライブする必要もなくなる。果たしてそんな時代が来るだろうか。