五十嵐一生の現在地

五十嵐一生 Ballads of sullen horn man
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五十嵐一生は卓越した技術と美しい音色、現代的なアドリブフレーズ、すべてを兼ね備えたトランペッターとしてシーンに登場した。テナーの竹内直とのフロントラインは、まるで「美女と野獣」のように対照的で魅力に溢れていた。
その後まもなく、彼は私生活でトラブルを抱えた。それを知ったとき、驚きの一方で、どこか、さもありなんという思いをもった。逆にいえば、何があってもおかしくないと思うほど、五十嵐一生の才能に惚れ込んでいたのだ。

あれから20年以上が経ち、五十嵐一生は50代半ばになった。この間、彼の演奏を聴く機会はなかったが、辛島が亡くなる直前にデュオ作が出たと思ったら、その直後にこの作品が発売となった。変わらぬ美しい音でバラードをじっくり聴かせ、トランペットのバラードアルバムとしては文句なく最高の作品だと思う。

CD2枚組のバラード集とは、売れることなどまったく眼中にないようだ。それが許される環境にあるのだろう。才能が埋もれてしまうことなく本当に良かったと思う。
美音・美フレーズ路線はこれでもう十分。そろそろ空間を切り裂くような切れ味の鋭い演奏が聞きたい。
まだまだ老け込む年齢ではない。マイルスは55歳で『We Want Miles』を録音したのだから。