チェット・ベイカーの引力

Philip Catherine I remember You
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ずいぶん前のことになるが、フィリップ・カテリーンはフランス国立のビッグバンドオーケストラを率いて来日し、「Live Under The Sky」に出演したと記憶している。そのときは現代的なグニョグニョギターを弾いていたような気がするのだけれど、誰かの間違いだろうか。欧州のジャズギタリストというだけで関心外だったのでどうにも記憶が覚束ない。
のちにチェット・ベイカーの晩年にパートナーを務めていたことを知って、あらためて所有しているチェットのアルバムを見たところ、フィリップ・カテリーンが参加しているのが2枚あった。

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この2つのアルバムは、チェットの最高傑作である東京でのライブに次ぐ出来ではないかと思っていたが、正直なところギターが誰かにはまったく関心がなかった。
チェット・ベイカーとはそういうアーティストなのだ。共演者が誰かはそれほど重要ではなく、良い演奏になるか酷い演奏になるかも、すべてチェットしだい。実際、共演者で印象に残るプレイをしたのは、ディック・ツワージクとハロルド・ダンコぐらいではないだろうか。

結局のところ、フィリップ・カテリーンには関心がないのだけれど、トム・ハレルが好きで入手したのが上のアルバム。これはフィリップ・カテリーンがチェットに捧げた作品で、トム・ハレルがチェット役を務めている。
ここでのトム・ハレルはまるでチェットのように眠りを誘う。チェットの引力に引きつけられたトム・ハレルが、チェットに代わって死へいざなっているように思えて仕方ない。死臭が漂う、チェット・ベイカーとはそういうアーティストなのだ。