864円に目が飛び出る

数年前から高級食パンが人気だ。わが家から歩いて10分ほどの範囲にも、ここ数年で2件も店ができた。
パンを食べることが少ないので、あまり興味はなかったが、試しに買ってみようということになり、散歩がてら近くの店舗に行ってみることにした。

店内はガランとしていて品物は置いていない。レジの向こうに店員さんがいるだけだ。かみさんが近づいていき、「一つください」と声をかけた。
すると「ありがとうございます、864円です」という声とともに、紙袋に入った食パンが差し出された。

食パンが864円? ん?と思い、かみさんの様子をみると明らかに動揺している。なかなか支払おうとしない。恥ずかしいじゃないかと思いつつ、紙袋を受け取った。

長方形の大きな食パンが入っている。かみさんは400円ぐらいだと思っていたらしい。2斤で864円だから、それほど予想と違っていたわけではない。しかし、予備知識なく食パンを買いに行き、いきなり864円と言われたら、たいていの人は衝撃を受けるのではなかろうか。「ビックリしたー。目が飛び出た」と笑い転げながら帰った。

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2斤もの食パンを数日内に食べ切らねばならない。家に帰ってさっそく、おやつ代わりに千切って食べてみた。ほんのりと甘く、湿り気があって美味しい。たしかに違う。軽く炙ったら、さらに美味く感じた。

スーパーで出来たての食パンが売っていたのでチェックしたら、1.5斤で190円。この価格差をどう考えるかは、その人しだいだ。軽い小麦アレルギーの自分にとっては、美味いお米のほうがいいけれど、864円で贅沢を味わえるなら、たまには悪くないかもしれない。でも、きっとクセになっちゃうんだろうなぁ。

さよなら チック・コリア

chick corea trilogy
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チック・コリアが死んでしまった。
ジャズミュージシャンが次々と世を去っていくのには慣れっこだが、チックの訃報には寂しさを禁じ得ない。キース、チック、ハービーの3人はやはり特別な存在であり、月並みな表現だが一つの時代が終わった思いがする。

小動物のような敏捷さで華麗に駆け回る『Now He Sings, Now He Sobs』、ダイナミックな交感からリリシズムが湧き上がる『Trio Music Live in Europe』、名手たちの至芸に興奮させられる『TRILOGY 』などトリオでの録音は名盤ばかりだ。

でもチックといえば、なんといっても「スペイン」「ラフィエスタ」。心躍る名曲をありがとう。合掌。

軍国教育の残滓

森喜朗の後任は川淵三郎だという。あぁなるほど、その手があったかと感心しつつ、そんなに日本は人材不足なのだろうかと脱力してしまった。

Jリーグ立ち上げに尽力した川淵三郎だが、すでに84歳という高齢。昭和11年生まれだから終戦時は9歳ということになる。この世代は軍国教育を徹底的に受けたことで右翼的思想の持ち主や、国士たらんとする人が少なくない。川淵もその一人であり、石原慎太郎などと共通するものがある。戦前の軍国教育を受けてきた最後の世代だ。

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男尊女卑的な考え方が自然にインプットされているから、森と同じような失言をしてしまう可能性はある。とはいえ、このタイミングでは人身を一新することもできず、川淵にバトンが渡されたというところだろう。この交代劇には辞任に至った原因に目を向けた形跡は一切うかがえない。

軍国教育の価値観に染まった人々がいまだに日本を動かしている。終戦から75年。教育というものは、かくも長く、大きな影響を及ぼすものなのだ。

Everything Must Change

遠出できず退屈な日々が続いている。秘湯でのんびりしたいところだけれど、緊急事態宣言が延長された最中に東京から出かけて行くのは気が引ける。はて、1年前の今頃は何をやっていただろうと思い、ブログを遡ってみると、四国に旅行に出かけていた。ずいぶん昔のことのように感じるのは、環境の変化が大きいからだろう。

変化するのは当たり前だと思ってきたし、変化することは良いことだと考えてきた。でも、こういう考え方は、もはや過去のものかもしれない。今の若者たちをみると、護身術としての順応性がインプットされている。その代わり、環境の変化や軋轢、葛藤を通じて柔軟性を獲得していく経験をしていないように思う。
どちらかといえば、変化を拒み、変化を嫌う。それが政党支持にも表れている。

森喜朗の失言は決して森個人の問題ではない。日本の風土が生み出した典型的な日本人でしかない。政治家も経済界も、すべてが変わらなければならない。

「Everything Must Change」
ランディ・クロフォードの名曲だが、印象深いのはカーメン・マクレエのバージョン。
いつの時代も、ほんとうに強いのは女のほうだ。


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あり得たかもしれない近未来

material hallucination engine
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このアルバムには、"あの時代"の空気がある。
リリースは1994年。阪神大震災オウム事件は発生しておらず、Windows95も登場していない。バブル崩壊は明らかになったものの、まだ多くの人は不況が長引くとは思っていなかった。世界は分断ではなく融合の予感に満ちていた。

ビル・ラズウェルが生み出すサウンドは近未来をイメージさせる。ウェイン・ショーターを起用したのは慧眼というほかない。その後の世界の変容を知ったいま、この作品を久しぶりに聴いたが、27年前の作品にもかかわらず、古臭さを感じることはなかった。
ここにパッケージされているのは、あり得たかもしれない近未来なのだ。

吉田博 展

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「吉田博展」を見に東京都美術館へ出かけてきた。ポスターになっている裏剱の三ノ窓雪渓をはじめ、山岳風景の作品に惹かれたのがきっかけで画集を2冊持っているが、オリジナル版画を見たかったので、この展覧会は待ち遠しかった。

40歳を過ぎて木版画を始めた吉田博。浮世絵と西洋画の技法を合わせた精緻で空気感のある作品は、海外で人気が高かったらしい。戦後、進駐軍の関係者もアトリエを訪れていたという。

木版画の制作は、絵師、彫師、摺師というプロフェッショナルによる分業制だということを、恥ずかしながら初めて知った。浮世絵の数倍も摺重ねて複雑な色彩を出していくのが吉田博の特徴。高い技術を持つ扱いづらい職人たちを統率する力があったのだろう。

木版画で世界の風景を描こうとしていた吉田だが、最後の作品が農家の土間を描いたものだったというのは印象的だった。

経団連に存在意義はあるのか

日立の会長で経団連会長の中西宏明が連合の神津里季生とオンライン会談し、「日本の賃金水準がいつの間にか経済協力開発機構OECD)の中で相当下位になっている」と発言したという。

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これには呆れた。人件費を抑えて配当率ばかり上げてきたのは経営者側であり、なかでも法人税の引き下げと消費税引き上げを主張してきた経団連の責任は大きい。
一昨年ころには日立の会長室に初めてパソコンを入れたというニュースが流れたが、この時代感覚のなさは経営者として明らかに失格と言わざるを得ない。福島第1原発の事故処理もあって日立という企業は安泰かもしれないが、内実は相当おかしなことになっている可能性が高そうだ。

財界トップがこんな程度の認識かと思うと、総理大臣ともども、日本という国のレベルの低さを思い知る。いつのころからか経団連は日本を沈没させる先導役となった。日経連と統合して以降の歴代会長の品のなさは、日本の劣化をまざまざと示している。